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「もしもし 私 メリー 今 あなたの 真上に いるの 」 第二十一話 私が振り返るのと、丸山の驚愕の咆哮、どちらが先だったかは分らない。 丸山が顔を天井に向けたときには、既に人形は柱と天井に器用にしがみつき、 圧倒的に存在感のある不気味な鎌が、彼の首を射程距離内に収めていた。 ・・・まるでカマキリがエモノを捕食する寸前のように。 次の瞬間、私が見たのは、丸山の咽喉に突き立てられる刃、 そして、そこから溢れる真っ赤な鮮血。 丸山は受話器を握り締めたまま、ドサッと床にその巨体を沈み込ませた・・・。 「人形」はゆっくりと床に舞い降りた・・・。不気味なほど静かに。 私は再び絶望の恐怖に襲われた。 首が変な角度を向いたまま、足を引きずりながら・・・先ほどの鎌を携えて向かってくる・・・。 駄目だ もう 助からない・・・ それでも私は最後まで「生」にしがみつきたかった。 「・・・お願いだ! 私は関係ない! たすけて・・・ 妻と・・・娘がいるんだ・・・生きてた時の 君と 同じように 可愛い娘が・・・ 私の帰りを 待っているんだ! おねがいだ むすめが 麻衣が泣いてしまう・・・ 」 私は泣き叫んだ。自分の置かれた状況・・・目に浮かんだ愛娘の姿どちらによるものかは分らないが、両の瞼からはどんどん涙が溢れてきた。 その時、何故か泣きじゃくる麻衣と、「人形」の過去が私の脳裏で重なっていた。 見ればこの人形もボロボロなのだ。・・・相次ぐ戦闘のためか、 薔薇の刺繍の黒いドレスはあちこち破れ、手足の関節も正常ではない角度に曲がっている。 銀色の髪はボサボサに乱れ、首もずれ足も引きずり、 その白い手足や端正なはずの頬の表皮は、石膏がはげてボロボロになっていた。 人形の目の下の、はげた石膏の跡が、大粒の涙を流した跡のようにも見える・・・。 「怖かった・・・のかい・・・?」 私の口からは、その場の状況にそぐわない言葉が出た。 「彼女」は私を黙って見つめている。 「苦しかったのか・・・? 今も苦しいのか・・・? メリー・・・?」 ・・・人形は私の言葉を理解してるのか、全く聞こえてないのか、 その表情や仕草からは全く読み取れない・・・。 ⇒
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SOS帝国宇宙艦隊総旗艦兼第一艦隊旗艦ブリュンヒルトは、新人類連邦で建造された最新鋭艦隊旗艦級大型戦艦であった。試作艦としての色合いが濃く、コストを無視した装備がふんだんに使用され、火力、防御力、通信能力、情報処理能力、どれをとっても既存の艦隊旗艦級大型戦艦を上回っていた。さらに、防御スクリーンの効率を高めるために曲線を多用した設計を取り入れ、無骨なイメージが付きまとうそれまでの軍艦とは一線を画する繊細なフォルムに仕上がっている。白鳥に喩えられるその優美な姿は、見る者のため息を誘い、乗員の保護欲を大いに高ぶらせた。 ブリュンヒルトは艤装後、数ヶ月間評価運用がされてから、この最新鋭艦と同じく軍の期待を一身に受けていた英雄の座乗艦となった。英雄は一度乗っただけで「極上の乗り心地よ!」とブリュンヒルトをいたく気に入り、自身が新人類連邦に反旗を翻してからも、密かに呼び寄せたこの艦に乗って指揮を執り続けていた。 現在、コンピケン連合軍迎撃作戦の中枢部となっているブリュンヒルトの司令室では、目の負担を軽くするために暗くされた照明の中、中央に備え付けられた三次元戦況図が妖しく輝いていた。その中では敵を示す赤が、劣勢になった味方を示す青を各所で分断して飲み込まんとしていた。通信士からも各艦隊の悲痛な叫びが伝えられている。 「第二艦隊の戦闘可能艦が半数をきりました。まもなく敵に完全包囲されます」 「第四艦隊旗艦ヒューベリオン大破。キョン提督以下艦隊司令部要員は戦死した模様。分艦隊の指揮をとっていた副司令官クニキダ提督が艦隊の指揮を引き継いでいますが、艦隊は混乱状態に陥っています」 「各艦隊司令部との通信が不安定になっています。敵の電子妨害が我が軍の対電子妨害を上回ったからだと思われます。現在対抗処置を・・・」 司令室の主である超元帥ハルヒは戦況図の前に立って、いらだたしげに報告を聞いていた。ハイヒールを踏み鳴らす音が通信士の声をかき消す。 「閣下、我が第一艦隊も敵C艦隊に半包囲されて防戦を強いられております。ここは艦隊を紡錘陣に編成するなりして前面の包囲を突破し、善戦を続けている第三艦隊へ合流するのが得策かと思われます。合流して敵の総旗艦がいる敵A艦隊を攻撃すればまだ勝機が・・・・・・」 総参謀長であるコイズミが第二艦隊の指揮を執っているので、事実上ハルヒの補佐に当たっているユーリ・イヴァノフ参謀副長が意見を具申した。 「そんなこと分かってるわ。でも、半包囲されてる状態で艦隊を編成するなんて、敵の良い的になるだけよ。あっ、第三十二戦隊に艦隊の中心部へ移動するよう命じて。損害が大きすぎるわ」 ハルヒは刻々と不利になっていく味方を映し出す戦況図をにらみつけながら答えた。豪快で派手な戦法を好むハルヒにしては消極的な姿勢だった。今回の戦いにはハルヒの心を消極的な方向へ引っ張っている理由が存在していたのだ。 「しかし、それでは」 イヴァノフの発言は探査参謀の悲鳴に等しい報告によって遮られた。 「第四艦隊を包囲していた敵A艦隊が移動を開始しました!予想到達地点は我が艦隊の後方RU77ポイント。このままでは敵に挟撃されます!」 ハルヒは鋭い舌打ちをすると、ようやく決心をつけた。 「艦隊を大急ぎで紡錘陣に組み直して!挟撃される前に敵C艦隊を突破するわよ!」 第一艦隊は敵C艦隊の相手だけで手一杯である。味方から支援を受けられないまま、後背から攻撃されて挟み撃ちにされればひとたまりも無い。ゆっくりと死刑執行を待つよりは、一か八かで勝利をつかむことを選んだのだ。 だが、艦隊運動はハルヒの期待を裏切った。戦況図の中で再編されていく艦列の動きは蝸牛よりも遅いだけでなく、無駄が多すぎるようにハルヒは思えた。こちらの意図に気づいた敵が間断なく砲火を浴びせ、味方の動きをさらに鈍らせる。 「閣下!これ以上編成に時間をかけていると手遅れになりますぞ!」 「もう限界です。突撃命令を!」 副司令官のビッテンフェルトとグエンが通信画面に現れて気炎を上げた。この二人はハルヒが新人類連邦軍で戦っていたときからの部下であり、SOS帝国独立時にはリテラート星系駐屯艦隊の司令官と副司令官だったので、そのままSOS帝国軍に加わっている。もっとも、ハルヒに信仰心ともいえる絶対的な信頼を寄せているので、宇宙のどこにいても駆けつけていただろう。 それぞれ非凡な才能を有する指揮官で、特に艦隊の攻撃力と破壊力を引き出す能力はずば抜けて優れており、“猛将”“猪武者”の異名を付けられ敵味方に恐れられていた。どちらも司令官の冷静なコントロールの下でこそ絶大な破壊力を振るえるタイプで、ハルヒの指揮下になった際にはその特性を十二分に発揮していた。ただ、同族嫌悪からなのか二人の仲は非常に険悪で、会議だけでなく廊下で顔を合わせる度に角を突き合わせてきた。一説によると、とある辺境艦隊司令部と赤毛の美女にまつわる挿話からはじまった確執だとされている。 「あんた達正気!?こんな中途半端な編成で突撃するなんて自殺行為よ!あたしに陳情してくる暇があったら、分艦隊の指揮を執りなさい!」 ハルヒは二人の無謀な案を一蹴したが、既に遅かった。軍艦には不釣合いなほどの美しさを持つブリュンヒルトが、ついに敵艦隊の火力の網に捕まったのだ。 「本艦及び旗艦護衛戦隊に対艦ミサイル多数接近。数・・・およそ4000!」 「旗艦を下げるわけにはいかないわ。ブリュンヒルトと護衛戦隊は味方の再編成が終了するまでこの場に踏みとどまり、全力で対艦ミサイルを迎撃しなさい!艦長、この子のことは任せたわよ」 ハルヒはマイクをつかんで艦橋で艦の指揮を執っているザイドリッツ大佐を呼び出した。 「これは……できる限りの努力はしてみます。何か固定されているものにつかまってください!」 艦長の言が終わるや否や、ブリュンヒルトは身体中に付いている姿勢制御噴射口を目一杯吹かして回避運動を開始する。重力制御を超える振動が来る前にハルヒは真後ろにある、快適な座り心地を提供する司令官用の座席の背をつかんだ。視界の隅でイヴァノフがよろめく姿が見えた。 雄雄しき戦乙女と彼女を守護する艦達に装備された近接防御火器が火を噴き、ミサイルを次々に破壊していくが、いかんせん数が多すぎた。必死に艦を守る対宙レーザーの火線や短距離ミサイルの群れをかいくぐり、敵の対艦ミサイルが命と引き換えに自らの使命を果たしていく。 「戦艦アエリア、デ・ロイテル、巡航艦コルドバ、ドーロホフⅢ、タスケ・テエーリン、ハイフォン撃沈。その他護衛戦隊の半数が戦闘不能」 「第五モジュールにミサイル命中!E3からE7ブロック損傷。E1からE10ブロックの気密が破られました。九十七名が死亡、負傷者多数。くそっ!第二と第三にもミサイル!」 「ダメージコントロール間に合いません!」 味方の損害報告に混じって艦橋からのブリュンヒルトの損害報告が入る。 「どうやらブリュンヒルトもここまでのようです。閣下の棺がこの艦になることを艦長である私は幸せに…」 「馬鹿っ!あきらめたらそこで戦闘終了なのよ!」 艦長が不吉なことに最後の別れの挨拶を始めたので、艦隊の司令官らしい風格のある言動で黙らせたが、ハルヒにできることはもう何も無かった。 「推進機関被弾!反物質燃料槽に誘爆しま…」 ここで報告は強制終了させられた。艦内の全ての灯りが消え、一瞬後に復旧する。次に機械音声の無機質な声が、気まずい沈黙の流れる司令室に響いた。 「本艦は撃沈されました。本艦は撃沈されました」 「全軍に告げます。総旗艦ブリュンヒルトが撃沈されました。我が軍の敗北です。繰り返します…」 SOS帝国暦一年十一月二十四日、コンピケン連合艦隊よりニ、三足ほど早くウィンダーズ星系に到着したSOS帝国艦隊は、休息もそこそこに、万能と沈黙をつかさどる女神ナガトが開発した戦術シュミレーションシステムを使用した演習を行った。百隻単位の艦艇で構成されている戦隊レベルでの演習はこれまでにも行われていたが、五個艦隊、70000隻以上の艦艇が参加する大規模な演習はSOS帝国宇宙艦隊成立以来初であった。SOS帝国軍とハルヒの威信をかけた演習の結果は、先のように目も当てられない、もはや一方的な虐殺と表現しても申し分ない結果だった。 実戦はもちろん、士官学校の艦隊戦シュミレーションから通して振り返ってみても、これほどまでに一方的な負け戦はハルヒの記憶層のどこを探っても出てこなかった。ハルヒの自尊心は敗北という鋭利な文字によっていたく傷つけられた。シュミレーションの敵のレベルが最強だったことを差し引いても、己の能力に絶対の自信を持っているハルヒにとっては、耐え難い屈辱的な出来事だった。 影響はハルヒだけにとどまらなかった。無敵のはずだった英雄の敗北は、英雄を信じて付いてきている者達の心に無視できない波紋を広げさせていた。戦闘不能判定をされた艦では、仕事を取り上げられた乗員達が不安な顔をして、上官の目を盗んでは私語をしていた。その上官達でさえも深刻な表情で仲間と相談をしていた。 「閣下、演習終結コードを」 イヴァノフがブリュンヒルトが撃沈された瞬間から、形の良い眉毛を危険な角度に急降下させ、腕を組んだまま身動き一つしない司令官にそっとささやく。司令室の誰が見てもハルヒが怒りを堪えていることは明らかだった。 「……“ロシアン・ティーを一杯。ジャムではなくママレードでもなく蜂蜜で”」 マイクを通してハルヒの声紋が認識された途端、艦外ディスプレイを埋め尽くしていたCGのミサイルが消え去った。戦況図からも敵を示す赤が消え、戦闘の過程で破壊された青が冥界からの復活を果たした。それと同時に全てのシステムが回復、膨大な量の通信が開始された。演習を記録したデータをブリュンヒルトに集め、解析する作業を行うためだ。 ハルヒは無残にも散り散りにかき回された青が映る戦況図を一瞥すると、通信参謀に全軍に通信回線を開かせるように命じると、通信用カメラのある場所を向いて無理矢理、万人を魅了してきたハルヒ特有の不敵な笑みを作った。うなだれた姿を見せて敗北で低下している部下の士気を更に下げる、それだけは避けなくてはならない。ときとして、指揮官は虚偽の姿を見せて部下を鼓舞しなければならない時があるのだ。 「みんな、これで演習は終わりよ。負けちゃったけど、お疲れ様。どうやら行軍の疲れがまだ残ってたみたいね。あたしもコンピューターが敵だと思ってついつい甘くなっちゃったし。今日はそれぞれの艦、戦隊で反省会を開いてじっくり話し合うこと。もちろんRC12ポイントに集結しながらやりなさいよ。時間がもったいないから。反省会が終わったらゆっくり休んで疲れを取って頂戴。ただし、明日も演習をするから、覚悟しておきなさい。もし負けたりしたら、全員死刑だから!!あと、各艦隊の司令部要員は今すぐ通信室に集合。以上!」 威勢よく普段とほとんど変わりないハルヒ節をマイクに叩きつけると、すぐに偽りの仮面を脱ぎ捨てて、まとわりついている敗北の魔手を振り解くように専用通信室へ早足で歩き出した。 その後を追って浮かない顔したイヴァノフ以下の参謀グループ、護衛兼人員不足から首席副官へ昇進したメイ・ユンファ中尉が続く。本来ならば首席副官には佐官以上で副官経験がある軍人が就く予定であったが、ハルヒが強引にメイを任命したのだ。メイは思わぬ抜擢に驚き、かつ自分がハルヒに目を掛けられていたことを知って非常に感動したのだが、彼女はこの大抜擢の真の意図をまだ知らなかった。 ハルヒが専用通信室の席に着いたときには、各艦隊司令部と秘匿回線がつながっていた。司令官から艦隊参謀グループまでが皆、この非常事態を受け止めており、各々の面持ちをしてディスプレイに顔を並べていた。明るい表情の者は一人もいなかった。 「何たるざまなの!」 開口一番ハルヒの怒鳴り声が回線を支配した。ミクルは数万km離れた座乗艦で一回り身を縮こませた。 「我が軍にとって初めての大規模演習だったことを考慮しても、これはひどすぎるわよ。あたしを含めてだけど、みんな反省が必要だわ。特にタニグチ!あんたはブラックホールより深く反省しなさい!!」 「何で俺だけ名指し!?」 正面ディスプレイにかろうじて美形の部類に入るが、部下からはむしろひょうきんな顔と見られ愛されているタニグチの顔がアップで飛び出した。 「あんたがしょっぱなに変な艦隊運動をして撃破されたところから、全てが狂ったんでしょうが!」 奥歯をむき出しにして口角泡を飛ばしているハルヒはタニグチに向かって話しているつもりなのだが、カメラ映りの関係から通信に加わっている全員がハルヒに責められているような気分になる。 「ありゃ敵が予想外の方向から現れたから、そいつを迎撃しようとしてだな…」 「それくらい作戦の許容範囲でしょ!もっと余裕を持って対処しなさい!」 「アホのタニグチに怒りをぶつけるのも良いがな、ハルヒ。お前が突撃ばっかりして味方から離れすぎるのも問題だと思うぜ。あれじゃあ、敵に包囲してくださいって言っているようなもんだ」 ハルヒがタニグチの必死の抗弁を粉砕していると、もはや諸々の会議で定番となっているキョンのつっこみが入った。当然怒りの矛先はキョンへと方向転換する。 「ちょっと、第三者面して説教するつもり?あたしは作戦主任参謀の立てた作戦に従ったまでよ。あたしの艦隊の突撃は作戦の許容範囲じゃない!それと、あたしを呼ぶときは閣下!けじめをつけなさい!」 「俺の立案した作戦が敗北につながってしまったことには責任を感じる。だが、後退していく敵に突撃をかけて、味方の制止も聞かずに深追いしすぎてそのまま縦深陣に誘い込まれる。なんてことは作戦に入れた覚えがないぞ」 「んぐっ。あ、あれは艦隊の速度が思ってたよりも遅くて……はあ。要するにあたしはタニグチのヘマをカバーできないほどしょぼいってこと、か。スズミヤ・ハルヒの名も地に落ちたわね」 身体の中に溜まっていたうっぷんを吐き出した後に残ったものは、自嘲めいた寂しい、ハルヒには似つかわしくない笑いだった。普段の快活とした姿はどこにも無く、秘匿回線に参加している将官を驚かせた。 キョンはついつい嫌味を言ってしまった自分の舌を引っこ抜きたくなった。同時に、ハルヒの憂鬱はハルヒポリスの『黒猫亭』に置いてきたので当面は安全だと結論付けた自分の判断力に、苦情を言いたくなった。最後に、こう考えると俺はあいつよりも太い神経をしてるんだなぁ、というどうでもよい客観論を頭の隅に追いやると、大急ぎで、されど慎重にフォローするための言葉を選んで舌の上に整列させた。 「まあ、そんなに気を落とすな、ハ・・・閣下。今回の敗北の原因は色々とあるが、一番の原因はお前じゃない。艦隊の錬度不足だ」 戦闘中、ハルヒの脳裏に付きまとって積極性を削ぎ落としていた張本人はまさにそれであった。本来五カ国の異質な艦艇が寄り集まって編成された烏合の衆でしかないSOS帝国艦隊は、この演習で弱点を盛大に暴露してしまったのである。 キョンは艦隊の編成を任された際、同じ国の艦艇数百隻を束ねたものを戦隊とし、その戦隊を旗艦直属と分艦隊に振り分けて一つの艦隊としていた。これは、未だに全艦艇の武装の統一がされていない現状を無視して、出身国がばらばらな艦艇で戦隊を編成したら、戦闘で混乱が起きる上に、補給の観点から見ても好ましくないことは簡単に想像できるからだ。かといって艦隊を丸ごと出身国ごとの艦艇で統一したら、他国の兵士との交流が皆無になり、SOS帝国軍であるという意識が薄くなったり、兵士間でいらぬ対立が発生する恐れがある。キョンの処置は大いなる妥協の上に成り立ったものだったのだ。 しかし、演習では、例えば「前面の敵にミサイル攻撃をしろ」という単純な命令が旗艦より発せられたとき、とある戦隊はできるだけ敵との距離をとってミサイルを発射しようとし、別の戦隊では敵との距離を縮めてからミサイルを発射しようとしてお互いを邪魔してしまい、艦隊司令官はいちいちそれを是正しなければならなかった。このような事例は一つや二つで無く、艦隊司令官は続発する戦隊の行動の不一致の対処に時間を取られ、艦隊全体の指揮を妨害されてしまったのだ。ハルヒなどは途中からさじを投げてしまったが、おかげで艦隊運動能力は大幅に低下してしまい、行動の選択肢が減ってしまった。いくら優秀な司令官が知略を尽くした作戦を立てても、艦隊がその通りに動いてくれなければ意味が無いのである。 SOS帝国軍の基本的な運用思想を定めた戦闘教義は、新人類連邦軍のものを基盤としてSOS団のメンバーがアレンジを加えたものを使用している。しかし、新人類連邦軍の出身者ならまだしも、その他の人民統合機関軍や天の川情報共同体軍の出身の戦隊指揮官は、それぞれの軍が使用していた戦闘教義が完全に頭から抜けきっておらず、結果として戦闘中の行動に齟齬を生じさせてしまったのだ。要するに、艦隊にまとまりがなくなってしまったのだ。軍隊はワインやウィスキーと同じで良い味が出るまで時間がかかる、とはよく言ったものだが、生まれてからまだ半年のSOS帝国軍は熟成期間が足りていないことは明白であった。 「……分かってる。何とかしなきゃならないのが艦隊の錬度だってことくらい、あたしにも分かるわよ。ただ、それを言うと自分の失敗を誰かに押し付けてるようだし、あたしを信じて戦ってくれた仲間達に悪いと思って……ああもうっ!英雄やら皇帝やらに祭り上げられて浮かれている間に、あたしも武人としての感覚が鈍ったみたいだわ!」 キョンからの通信をじっくり頭の中で消化してから、おもむろに、ハルヒはポニーテールにするには若干短い髪をかきむしって叫んだ。 「わたしも宇宙艦隊司令長官として謝罪を。全艦隊を統括する役職に就きながら、このような結果を招いてしまったのはわたしのミス。願わくば汚名返上のために、明日以降の演習の修正案を具申させて欲しい。艦隊は実践的な演習より、基本的な艦隊運動の訓練が必要」 「総参謀長の職を全うできなかっただけでなく、シュミレーションとはいえ閣下からお預かりした艦隊を壊滅させてしまうとは失態の極み。本来ならば死を持って償うべきでありますが、もし閣下がお許しになるなら再戦の機会をいただきとうございます」 「えっと、えっと……とにかく補給に関しては気にしないでください。わたしが責任を持って皆さんに補給物資を送り届けます。ビームもミサイルも遠慮なくばんばん撃っちゃってかまいません!」 一時的に饒舌になった宇宙艦隊司令長官、うやうやしい表現を好む総参謀長に続いて、戦線の後方に留まって演習にノータッチだった後方主任参謀までが発言してくると、さすがにハルヒも苦笑して同時に口を開きかけたビッテンフェルトとグエンを手を上げて制した。残念なことにタニグチの「俺は?俺に押し付けてもかまわないのか?」という心の叫びは、ハルヒだけではなく他の通信参加者からも半分意図的に無視されてしまった。いつの時代、どんな場所でもストレス解消用サンドバックはつらい役目なのだ。 「みんなで責任を口にすればいいってもんじゃないわ。失敗はそれ以上の成功で埋め合わせをすること。あたしもそのつもりだから。で、今回の演習の結果を踏まえて、迎撃作戦の大幅な見直しをするわよ。艦隊集結後に改めてこのブリュンヒルトで会議。 本格的な話はそこで。それまでに具体的な案をそろえておいて頂戴。あと、ユキ。明日の演習は今日と同じ模擬実戦よ。負けっぱなしはあたしのプライドが許さない。士気にも関わるからね。ただし、敵のレベルは最弱でお願い。以上。通信終わり!」 こうして通信は一方的に切られ、キョンは安堵のため息をついた。最後の瞬間に見たハルヒは、普段の活力三割減であったが、SOS帝国の頂点に立つに相応しい剛毅な意思で瞳を光らせているハルヒの姿だったからだ。 惑星トナッリ・ベアーの赤道直下に、天候条件さえそろえば衛星軌道からでも視認できる巨大な建造物があった。全コンピケン教徒の精神的な拠り所、もしくは権力という甘い蜜を愛する者の集う場所、唯一神コンピケンを祭るインテルノン神殿である。神殿は縦横の辺が4000m、高さが500mの立方体で、外壁は清浄を表す白で統一され、その内部には高さ223mのコンピケン像をはじめ、300万人を収容できる礼拝堂、神の代理人の一方的な意思発表の場となり集会所とは名ばかりの教徒集会場、歴代指導者や聖人の納骨堂など多数の施設が存在する。コンピケン連合の指導部と一部の狂信的信者にとってこの神殿は聖域であったが、ほとんどの国民にとっては神の名において権力をもてあそび、人民から搾取した富を蓄えることに専念する亡者の住処、諸悪の根源に他ならなかった。 古代ギリシャのドリス式オーダーに基づいて作られた壮麗な円柱が立ち並ぶ神殿の廊下を、これまた古代ギリシャ風の衣服を模した軍人用礼服に身を包んだ二人の男が肩を並べて歩いていた。この二人の軍人は背丈の違いさえあれ、色の薄い目鼻立ちからやや貧弱な体格まで驚くほど似通っていた。一般人が考える優れた武人のイメージにはかすりもしない彼らなのだが、戦場での武勲より唯一神コンピケンと現世での代理人である教皇に対する忠誠心が昇進の条件になっているコンピケン連合軍において、例外的に武勲のみで昇進を重ねてきたのがこのブ・イン・エーとブ・イン・ビーの兄弟なのだ。彼らがいなければ、近年のコンピケン連合軍戦史は全て血文字で書かれた敗北という文字しか必要としなかったであろう。ブ・イン兄弟こそ、その他の提督や教皇ら指導部に代わって、虫食いだらけの傾いた家であるコンピケン連合を真の意味で支えている柱だった。 「なあ、弟者よ。この戦争、勝てるかと思うか?」 二人の足音のみが響き渡る広大な廊下を三分の一ほど進んだ頃、不意にブ・イン・エーが右を歩く弟に尋ねた。 「何を言うんだ、兄者。我々は大神コンピケンのご加護を受けているのだ。コンピケンのご威光の前には異教徒や裏切り者どもの艦隊など無きも同然。必ずや勝利を収めるだろう」 ブ・イン・ビーの答えはコンピケン連合に籍を置く軍人のもっとも模範的な回答だっただろう。軍広報部が喜んで宣伝放送に使いたがる類のものだ。 だが、ブ・イン・エーは回答に満足しなかったらしく、立ち止まって自分より背の高い弟の目を見上げるようにして覗き込んだ。 「安心しろ、この廊下には我らしかおらん。もし、見張ってる奴がいても、そいつらとその背後にいる誰かに大声で教えてやれ。我らを不敬罪なり背信罪なりで告発して辺境惑星か処刑台へ追いやったところで、困るのは奴らだ。我らには昔と違って力があるのだぞ」 「兄者……はぁ。勝利を信じているのは、ボードゲームと艦隊戦の区別もできない教皇と、教皇のご機嫌取りをするしか脳の無い取り巻き連中だけだろうよ。なにせ相手はあの英雄スズミヤが率いる帝国だ。勝てると思うほうが狂っている。まあ、奴らは元から狂っているがな」 見かけによらず豪胆な性格をしている兄を持った弟は、その誰かを探すように廊下を見回してからため息をつき、苦々しい口調で皮肉のオブラートに包んだ真実を吐き出した。もし、一介のコンピケン連合人が街中でこの発言をしたら、たちまち宗教警察が飛んできてその者の人間としての権利と未来への道を奪っていたであろう。 「素直でよろしい」 ブ・イン・エーは弟の回答に満足げにうなずいていたが、弟の方は一度開放してしまった反逆の思いを、再び胸の奥に押し止めることが難しかったようだ。 「兄者、この際聞くが、何でSOS帝国に亡命しないんだ。スズミヤは突拍子もないところがあるし、我らと幾度となく矛を交じ合わせてきた敵だ。それだけに、スズミヤがどれほど優秀か、どれほど良い部下に恵まれているか、どれほど強固な意志を持っているか兄者には分かるはずだ。恐らくSOS帝国は銀河を統一する。天の川銀河に住む全ての人民が待ち望んだ銀河再統一だ。これほど見返りが多く、なおかつ信頼性の高い株に投資しない手はないだろう。良識のある者達はことごとくコンピケンに見切りをつけて去っている。兄者なら今の地位を利用して艦隊ごと亡命できるのに。俺には何故それをしないが理解できない!」 「かくいう弟者はどうなんだ。それだけのことが分かっているなら亡命しているはずだろ。我が弟は良識ある者達の中に入っていると思っていたが?」 ブ・イン・エーは目を閉じて怒れる弟の胸の内を聞くと、年長者の余裕と弟思いな兄の表情を混ぜて聞き返した。 「俺は兄者の後ろに立つだけだ」 弟は間髪入れず憮然として答えた。自らの決意を表すかのように。 敬愛の対象にされた兄は思わず苦笑してしまった。俺を崇拝するのは嬉しいがそろそろ生涯の伴侶を探しても良いだろうに、とブ・イン・エーは考えているのだが、こうも弟のブラザーコンプレックスぶりを見せ付けられるとなかなか言い出せないのだ。もっとも兄の方は「俺は結婚したくないだけだ。別に結婚できないのではない」と見栄を張っているのだが。 「確かに、弟者が後ろにいてくれたおかげで、これまで何かと助かったな。よかろう。俺が亡命しない理由を教えてやる。俺はな、単に神ではなく俺を慕って戦ってくれる部下達を見捨てることができないのだよ。仮に俺が亡命したら、後釜には来るのは祈ること以外何もできない馬鹿提督だ。そんな奴に部下達を任せることは到底俺にはできないね。弟者は艦隊ごと亡命しろとも言ったが、我らの親族だけならともかく、500万人以上の艦隊要員全ての家族を連れて亡命するなど不可能だ。ただでさえ我らは監視されているのだからな」 その程度の予想は弟にもできていた。しかし、ブ・イン・ビーは引き下がらなかった。二人が提督の地位を手に入れるまでに、そして、手に入れてからも受けてきた差別、虐げ、それらに対する抵抗心、それらが一体となって彼の舌を動かしていた。腐敗したコンピケン連合に残っていても、狂信者どもと戦うばかりで少しでも行動を間違えば生命の危機にさらされる。それよりSOS帝国へ亡命してハルヒの下で武勲を立てた方がよっぽど良い。彼は何としてでも兄を説得したかったのだ。 「そうは言うがな、兄者。ウォラス大佐は指揮下の艦艇227隻と乗員の家族全員を亡命させた。艦隊丸ごとだって決して不可能なことでは…」 「と、今までのは建前でな」 「は?」 兄の意外な言葉に弟の反論の濁流が一瞬途切れる。その間隙にさらに意表をつく言葉が滑り込まされた。 「我らはこれまで権力の亡者や無能な上官に対する意地だけで戦ってきたようなものだ。コンピケンのためとはまったく考えないで戦場に立っていた。だからな、今度ばかりは軍人らしく国家を、人民を守るために戦おうと思うのだ」 ブ・イン・エーは蒼白になった。彼は兄との三十八年間の交流の中で様々のものを学んできた。コンピケン連合への反骨精神もその中の一つで、それゆえに国家を守るなどという虫唾が走るような言葉を兄が使うとはとても信じられなかった。 「なっ、兄者らしくもないことを。SOS帝国は銀河を統一して人々に平穏をもたらすことを最終目標として、その実現に向けて動き始めている。それに比べて、コンピケン連合はコンピケン教の布教と異教徒の排斥。SOS帝国に時代の総意がついていることは明白だ」 「そう、弟者の言うことは正しい。正しいが、この国のはじまりを知っているか?天の川銀河統一政府が崩壊した直後、混沌と化した銀河を憂えて、いくつかの星系が集まって銀河の再統一を誓ったのがコンピケン連合の源流だ。コンピケン教などといういかれた連中が台頭して、国名をコンピケン連合に改称したのはたかだか三十年前。しかも、大部分の国民は神の世迷いごとなど信じてはいない。つまるところ“大部分の国民”を守るために存在するコンピケン連合軍は、天の川銀河の統一というSOS帝国と同じ立派な旗を掲げて戦っているわけだ。決して狂信者のために戦うのではない。特に俺はな。これで善悪は問題にならないだろう?」 「あ…兄者はそのような大昔のかびた建前のために、新たな希望の光を阻害し、何百万もの兵士を死地へと追いやるというのか」 ブ・イン・ビーは理解できないという風に頭を振った。 「徴兵されてるとはいえ、コンピケン連合軍憲章に“宇宙艦隊の存在意義はコンピケン教と国家を守ることにある”と記してある。コンピケン教の部分は飛ばしても良いから、同義的には大丈夫だろう。国の興亡や戦争の勝ち負けだって最終的な判断は歴史がするものだ。SOS帝国が滅亡しても、時代が望んでいるなら新たな若く活力のある勢力が現れるはずだ。我らが負ければそれはそれで良い。もし、俺の主張が気に食わなかったり、世のためにならないと思ったら、弟者、この場で俺を撃ち殺してくれ」 世間話をするような軽い口調で大それたことを言われたブ・イン・ビーは、思わず思考の海に投げ出されて下を向いた。しかし、下を向いている時間は長くは無かった。ゆっくりと顔を上げたブ・イン・ビーの瞳には、兄と同じく漆黒の炎が宿っていた。 「……何度も言わせないでくれ。俺の意思はさっきも伝えた通り、兄者の後ろに立つ。それだけだ」 この瞬間、皮肉なことに神を奉る国コンピケン連合は、神を信じぬ二人の男によって守護されることになったのだ。 「そんなに心配するな、弟者。この戦いが終わったら奴らは、我らをまた昇進させなければならないだろう。十分な力がついたら、クーデターでも起こしてコンピケン教を信じている馬鹿どもを追い出して、二人で国を奪い取ろうではないか。銀河統一の大儀だって完全に復活させることができる。それにだ、相手は英雄スズミヤといえども、我らには例の技術があるではないか」 例の技術とは、二ヶ月前に天の川情報共同体よりもたらされたワープに関する画期的な新技術である。この技術を得た教皇コンピケン三世は、SOS帝国に奪われたウィンダーズの奪還作戦の立案を軍部に命じたので、戦争発端の直接の要因はこの技術にあるといっても良い。 「あの技術を使えば、SOS帝国との戦いで有利に立つことができるのは間違いないだろうな。だが、怪しすぎはしないか?」 他国から運ばれてきた戦争の芽にブ・イン・ビーは一抹の不安を覚える。弱肉強食の戦国時代において見返りも無しに新技術を渡すような甘い国は生き残れない。天の川情報共同体はそれを承知のはずで、これには何か裏があるに違いなかった。例えば、SOS帝国とコンピケン連合を戦わせておいて、その間に天の川情報共同体が漁夫の利を占めるような。 「あの国が何を考えているか俺にはわからん。だから、何も考えずに利用できるものはありがたく利用しておこうと思う。見返りを求めてきたり、裏をかかれたらその時考えればよい。SOS帝国との戦争は避けることができない段階だからな。当面はそのことに集中しないといかん。さて、行かねば。教皇も艦隊を率いて出陣するそうだから、他の提督と一緒にちゃんと指揮ができるよう調教してやらないと」 そう嘯いてブ・イン・エーは歩き出した。その後を少し遅れてブ・イン・ビーが続く。ブ・イン兄弟の前には稀代の英雄でも気鋭の帝国でもなく、まずは無能な味方との戦闘が立ちはだかっている。不毛で忍耐の必要な戦いであるが、それだけに勝たねばならない。 第三章へ
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第二十三話 ・・・それからしばらくして警察がやってきた。 私は重要参考人として何日も取り調べられた。 私の推測では、県議会議員(命令)→秘書丸山(工作立案)→建設現場の三人(少女を自殺に見せかけて殺害)という仮説があったのだが、今となってはもはや無意味だ。 「人形」の話はしたが、「人形」を見たとか、「人形」が殺しまわったとは言わなかった。 応接室で、ただただ震えていたと・・・廊下に出た時にはもう血の海だったと、言い続けた。 実際証拠はないし、凶器もない。あんな大勢の警備を私が殺せるはずもない。 現場には、人形のものと思われる石膏の破片が落ちてたそうだが無駄だろう。 また、現場で生き残ったガードマン達(彼らを殺す目的はメリーにはない?)や、家政婦の証言(彼女は争いや人形も見ていないが)などから、最終的には私は解放された。 警察の中にもベテランの中に、「メリー」という人形に思い当たる者もいたようだ。 後で知ったが、教会の神父も私の解放に尽力してくれたらしい。 お礼を言いに行かねば。 仕事先の編集長には、出版用の原稿と、本当のことを書いた報告用の原稿を両方、提出した。 編集長は思いっきり対応に苦慮したようで(そりゃそーだろう)、 結局、報告用の原稿はファイルの奥底にしまわれた。 日の目を見る事はないと思う。 それでも、大量殺人現場に居合わせた事や、警察に長期拘留された事をいろいろねぎらってくれた。しばらく休みも頂いた。 あ、私の話も、もう終わりになるが、あの大量殺人が起きた次の日、こんな事が起きたらしい。 ・・・拘置所から一台の車が出て行った。運転手は昨日殺された県議会議員のお抱えの弁護士、 後部座席には監禁事件の加害者・森村剛志が乗っていた。車は彼の両親の家に向かっていたが、 高速で事故を起こし、車は中央分離帯に激突した。 不幸中の幸いか、二人とも命に別状はないが、弁護士は左足切断、青年のほうは、フロントグラスに頭から突っ込み、顔の半分を皮膚移植することになったそうだ。 恐らく以前のような甘いマスクには戻れないだろう・・・。 事故の目撃者によると、「事故を起こした車のボンネットの上に、赤い手袋をはめた『何か』が、しがみついているのが見えた」という。 ⇒
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概要 反逆の将-有岡城内戦-1階-荒木村重、謀反 10階-官兵衛の説得 30階-右近と長秀 50階-長秀の説得 70階-小さな火種 80階-右近の説得 100階-半兵衛と信長 110階-半兵衛の決意 130階-半兵衛の神算 140階-高山右近の正義 160階-有岡城牢獄にて 170階-魔王と反逆の将 180階-有岡落城 190階-村重の行方 200階-官兵衛、生還 概要 第二章実装以降の合戦イベントで紹介札を獲得した時及び条件達成時に発生する、会話イベントの一覧。不自然な全角スペースの箇所は、作中の台詞における改行箇所に当たる。 反逆の将-有岡城内戦- 1階-荒木村重、謀反 ナレーション:毛利を侵攻していた秀吉軍に 突如急報が入った 豊臣秀吉:なにぃー!村重が謀反し、有岡城に 帰ったじゃと!?信長様にあれだけ 寵愛されていながら、一体なぜ…… 黒田官兵衛:私に村重説得の許可を いただけませんか? 豊臣秀吉:単身、乗り込む気か? そんな危険なこと、任せられんわ! 黒田官兵衛:村重は、昔日の我が主・小寺の盟友 このままでは小寺は織田を捨て毛利 につく…… 黒田官兵衛:火種が広がる前に、村重を止めねば なりますまい 豊臣秀吉:……わかった。ただし、無茶はするなよ 旗色が悪ければすぐに逃げること、 約束してくれ 黒田官兵衛:御意 10階-官兵衛の説得 黒田官兵衛:信長様から受けた恩、お忘れでは ないでしょう?天下は今や信長様の もの。翻意は得策ではありません 荒木村重:…… 黒田官兵衛:信長様の軍に負けるは必至 苛烈な仕打ちを受けましょう 要らぬ火種を起こしてはなりません 荒木村重:…… 黒田官兵衛:村重様、ご返答を 荒木村重:誰か……官兵衛を投獄しろ 黒田官兵衛:……消えるのは、私か 30階-右近と長秀 高山右近:村重様が翻意!? なぜ…… 丹羽長秀:高山殿、落ち着きなされ。こういうと きは土いじりなどして、心を無に すれば村重様の本意も知れましょう 高山右近:そうですね。戦国の世は、欲や業で 本来の人の輝きが失われています 村重様もそうなのでしょう 丹羽長秀:ええ…… 私たちで村重殿説得に参りましょう 50階-長秀の説得 丹羽長秀:村重殿 どうか、考えを改めては くれませんかな? 荒木村重:いやじゃ! ……開城はせぬ! 丹羽長秀:まあ、そう言わず。ここは刀を 鍬に持ち替え、土いじりなどすれば 心も晴れましょう 荒木村重:刀を置けというのか…… 素直に従ったところで、不意をついて 私を手にかけるのだな!? 丹羽長秀:まさか…… ならば、私が先に刀を…… 荒木村重:……?どうした、早う刀を置かぬか 丹羽長秀:うおおおお! 小僧がっ! いいから、降伏せんか!! 荒木村重:!?やはり、謀ろうとしていたのだな! 誰ぞ、丹羽殿を牢に連れていけ! 70階-小さな火種 蛍:みんなで力を合わせて、織田家 掃討作戦! 順調に進んでますよね、頭領! 雑賀孫市:安っぽい作戦名を付けるじゃねえ ……まあ、荒木の謀反も成功し、 俺らに風が向いているようだな 蛍:でもー、捕まっちゃってる官兵衛さん からしたら、ウチらって 天下を脅かす火種らしいですよ! 雑賀孫市:いいじゃねえか。いろんなもんを 巻き込んで誰にも消しきれねえ、 大火にしようぜ 雑賀孫市:そのまま、魔王共々、塵も残らぬ くらい炎で焼き払ってやろう じゃねえか 80階-右近の説得 高山右近:村重様 私の家族も連れて参りました 私に二心ございません 高山右近:真にあなた様のために、申し上げて いるのです。官兵衛様を釈放の上、 信長様に開城なさいませ 高山右近:人として平等に与えられた権利を 奪うことなど、誰にも許されませんよ 荒木村重:……いやじゃ 私を貶めようとも、その手には 乗らぬぞ! 荒木村重:既に官兵衛と丹羽殿は我が手中 ……貴様とて捕虜にしてくれてもいい のだぞ! 荒木村重:……しかし、大人しく私に従えば、 丁重に扱ってやらなくもないぞ 荒木村重:そなたには守るべき家族もいよう? なあ、右近よ 高山右近:!? ………… ……分かりました 100階-半兵衛と信長 竹中半兵衛:もう……官兵衛殿って 時々、無茶するよなあ…… 竹中半兵衛:俺だっていつまで持つか、 わかんないのに…… 織田信長:さて、半兵衛 官兵衛は、真に捕まった、か? 竹中半兵衛:何それ まさか、官兵衛殿が村重様に 手を貸してるって? 織田信長:……官兵衛にも二心あり、か? 竹中半兵衛:……しょうがない 俺の神算で、危機の友をさくっと 救ってみせますか 110階-半兵衛の決意 雑賀孫市:さっさと退けよ 顔意を悪ぃ餓鬼を相手してるほど、 暇じゃねえんだよ 竹中半兵衛:人を見かけで判断するのはやめた方 がいいね。後悔するよ 雑賀孫市:憎まれ口を叩くとはまだ元気じゃね えか。それともただの強がりか? 竹中半兵衛:さて、どっちかな ……ま、どっちにしても、俺は 退かないけどね 130階-半兵衛の神算 竹中半兵衛:高山殿、このままでいいのかなぁー 高山右近:…… 竹中半兵衛:信長様は怖いよー 高山殿にも翻意あり! 竹中半兵衛:ってことで、有岡城に居る高山殿の ご家族ごと苛烈な目に合うかもよー 高山右近:……私はどうしたら 竹中半兵衛:大丈夫!この天才軍師にお任せあれ! 信長様も、毛利・雑賀・足利に 囲まれて敵だらけ 竹中半兵衛:誠意を見せれば、今なら悪いよう にはならないって! 竹中半兵衛:どっちにしろ、村重様は負ける 高山殿に取って、大事なのは 自分?家族? 竹中半兵衛:ちなみに俺は、顔色悪い参謀殿が 今は一番大事!かな 高山右近:!?……そうですね 私としたことが、大事なことを 見失っていたようです 高山右近:自分の信じた正しき義を生きる、 ですね 竹中半兵衛:そうそう! ……そう……こなくっちゃ 高山右近:半兵衛殿? 竹中半兵衛:……さあて、あとは、みんなにお任せ、 して……寝て暮らせる世が、くるまで、ひと眠り、しようかな…… 140階-高山右近の正義 高山右近:この通り、居城も全て捨てて 参りました 信長様に二心ございません 織田信長:して、うぬは何を望む? 高山右近:……皆に平等な権利がある世、 心から己が義を信じられる世を 目指しとうございます 高山右近:家族や友を幽閉し、いたずらに 人の権利を奪う者は許せません!! 織田信長:それがうぬの望みか、右近 織田信長:……付いて来ること、許す 高山右近:ははっ! 160階-有岡城牢獄にて 黒田官兵衛:……村重様 荒木村重:官兵衛、やつれたな 黒田官兵衛:……元よりこの顔色ゆえ 荒木村重:ふっ……強がるな ……官兵衛の言うとおり、信長様には 多大な恩を受け、私は出世が早かった 荒木村重:しかし、私ごときに期待し過ぎだ ……信長様は一体、何を 企んでおったのだ!? 黒田官兵衛:……信長様は、才ある者等しく 重用されます お考えすぎでしょう 荒木村重:……一時は、信長様に謝罪しようか と思った。しかし、部下があの苛烈な 信長様に従属することを許さなかった 荒木村重:もう何が正しいか分からん…… ……何も信用ならん! 黒田官兵衛:…… 170階-魔王と反逆の将 織田信長:摂津一国では飽き足らず、 背いたか、村重 荒木村重:いえ。信長様からいただいた褒美は どれも満足できるものでした 荒木村重:特に……太刀に刺した饅頭の美味は 村重、生涯忘れませぬ 織田信長:ククク……クク…… フハハハハ……! 180階-有岡落城 ナレーション:高山右近も味方した織田軍が 有岡城を包囲。有岡城は落城し、 約一年にも及ぶ戦いは終結した 黒田長政:父上、ご無事でしたか! すっかりおやつれになられて…… 黒田官兵衛:…… 黒田長政:父上……? 黒田官兵衛:……村重殿は、いずこへ? 黒田長政:城内には姿が見えませんでした おそらく、毛利にでも逃げ込んだと 思われます 黒田官兵衛:……そうか 黒田官兵衛:長政……戦乱は、かくもたやすく 人の心を乱す。何があっても、泰平を おびやかす火種は絶やさねばなるまい 黒田長政:はい、父上!黒田武士の誇りに かけて、天下泰平の世をもたらし ましょうぞ! 190階-村重の行方 毛利隆元:む、村重殿が有岡城を逃れ、こちらに 向かわれているようですっ! 毛利元就:あらかたの予想通りだね 毛利隆元:も、毛利は村重殿を受け入れるので すか?あ、あの方は茶釜だけ抱えて、 多くの家臣を見捨てたというのに…… 毛利元就:我々が判断するところではないよ 毛利元就:それに…… 彼は単純に我が身可愛さに 城から消えたのかな? 毛利隆元:そ、それは……? 毛利元就:荒木は毛利と同盟を結んだ。しかし、 毛利はなかなか援軍を寄越さず、 有岡は落城寸前…… 毛利元就:再度、毛利と交渉するため、価値ある 茶釜を抱えてひとり動いた…… という可能性も否定できない 毛利隆元:か、家臣のためにですか…… 毛利元就:……ま、そうだったとしても、 結果は何も変わらない 毛利元就:謀多きは勝ち、少なきは負ける 謀反など、勢いだけでそう上手くい くものではないのさ 200階-官兵衛、生還 高山右近:官兵衛殿、ご無事でしたか! 私の家族も無事でした! 黒田官兵衛:……右近殿はご家族も囚われの身 だったはず なぜ、織田にお味方なされた? 高山右近:それは、半兵衛様の 「顔色悪い参謀殿が一番大事」 という言葉に心打たれたからです 黒田官兵衛:……半兵衛が…… 高山右近:ええ、官兵衛殿には素晴らしいお仲間が いらっしゃ……った、のですね ナレーション:官兵衛は右近の言葉をさえぎるよう に半兵衛の元へと向かったが、 半兵衛の姿はすでに無かった ナレーション:官兵衛と半兵衛は、以後も言葉を交わすことはできなかったのである……
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人と言うものは信用しがたいものだ。だが、人はその上に契約を重ねて生きている。信用と言うものは契約が先に生んだものといってもおかしくはないのかもしれない。体の行動をあとから心が方針付けて調整する人体のシステムのように約束や契約から信用が後に生まれるわけだが、信用問題とは別に怖れるようなことがあれば約束はふいになってしまうだろう。例えば、今回の和葉のように。 早朝、レイヴァーが言っていた通りの場所へ向うために早起きしたのは正解だった。さすがの兄もまだ起きていない。 「やあ、和葉~早いねえ。」 秋が駆けてきて言った。 「本当にここにその……魔獣?が出てくるの?」 「そうレイヴァーは言ってたけどね~。まっ、魔獣出現予測は今まで一回も外れたことは無いんだよ。」 一回も。確か話の上では一般人には見えない霧を苦労の末特別なレーダーやらで捉えたとか言う話しだったはずだった。まあ、捕らえたら捕らえたでそこに魔獣が出てくるんだから分からなくも無い。 「さあ、ガンセリアの中に行こう。魔獣に暴れられると困るからね。」 そういって二人は走り出そうとしたが、途端に秋が持っている携帯が鳴った。直ぐに秋は応答のボタンをタップして携帯を耳に当てる。 「はいはい?」 『こちら賀茂、ガンセリアと対象魔獣を確認した。レイヴァーによる一時コードネームはタンゴ・ヤンキー』 「うるせぇよ!マイク音量どうなってるの賀茂ちゃん!?」 秋が携帯のマイクに対して叫ぶ。うーんこんなキャラだっけ。 『すまないわ、これ良く使い方が分からなくて。とにかく早く来て、能力は衝撃h』 「あ、え?賀茂ちゃん?賀茂、くっそまた携帯壊したなあいつぅ……。」 どうやら賀茂は情報機器音痴っぽい。 「ともかく、行くよ。」 そう言って、秋は走り出す。和葉もその後をつけて行った。 「レイヴァー君、例の研究についての進行状態を教えてくれるか。」 レイヴァーの前に座る男が言う。様相から見て、若く10代にも見えた。 「はい、ラーデミンコアは順調に収集されています。少なくとも総量で20はもうすでにあるかと。」 「それで、成功するかどうかはどうなのかな。これが失敗したら次は君に人間を作ってもらわなくてはいけなくなるからね。」 男はいらだたしく言う。 「いえ、ご心配には及びません。必ず、成功させて見せます。」 「うん、期待しているよ。もうすぐ、彼女等の戦闘が始まるんじゃないかな。」 モニターを見上げて、男が言う。 「彼女たちは良い適合者ですよ。少なくとも今は。」 レイヴァーはそう小声で言い残し、部屋を立ち去った。 「本当にあれが……魔獣なの?」 和葉はまたもや混乱していた。視界の先に立っていたのは、少女であった。黒いロングの髪だったが日本人ではない。なにやらエキゾチックな雰囲気を漂わせていた。 「確かにそのはず、あれがタンゴ・ヤンキーのはず。」 そう賀茂が言う。みんな、不自然なほど冷ややかな視線を魔獣といわれていた少女に投げかけていた。 「動くわ。」 そういい残して賀茂は先に走り出した。 「ちょっ、賀茂ちゃん待ってよ!」 秋が叫ぶが賀茂には聞こえてなかったようだった。 「対象に切り込む、ついて来て!」 そういうと賀茂は常人ではありえないほどの高さまでジャンプをする。秋が走りこんで対象の魔獣に接近して行く。少女――つまり、魔獣――は、何をすれば良いのか良くわからない様子であった。 瞬間爆風と衝撃音が、あたりを覆った。前も見えない状態で和葉はずっと生理的な本能からくる恐怖を感じていた。風が止み、おどろおどろしいながらも目を開くと賀茂と秋が先に居た。何をしているのかと近づこうとした途端、おぞましいものを見てしまった。 「何……これは……。」 首から先が血塗れになっている。先程の少女なのだろうか、黒く長い髪は少しずつ血に濡れて赤く染まっていっていた。がーがーと体を震わせながら、通常とはとても言えない息をしている。 はっと賀茂が和葉に気付く。 「秋、早くとどめを。」 「武士の情け、武士ではないけどね。」 秋は、その血に塗れた少女の頭を撫でる。 「おやすみなさい。」 少女の震えは段々と止まりその体が光りだす。血も何もかもまばゆい光に包まれて、最後には赤い小さい玉が残った。 「……。」 「さあ、終わったよ和葉。どうしたの?」 和葉は震えていた。それも少女の震えが伝播したかのように。 どうしたの?ではない。目の前で人が殺されたんだ。しかも、その上消えてしまった。 「本当にさっきのが魔獣で間違いないんだよね?」 「ああ、うん、そうだけど。ってか、だからこそ魔獣のコアが……。」 ただでさえ、普通の生活をしてきた和葉がいきなり血を噴出するような戦場に借り出されるのだ。しかも、何もしていないような少女を殺すような戦場に耐えられるかは甚だ不安であった。 「さっきのあの子は、別に何も破壊したり、人を殺したりしてなかった。それなのに問答無用で殺す必要があるの?」 「被害が起きてしまっては、遅いのよ。これは慈善事業でも侵略でもない自分とその社会を守るために神が私たちを――」 「あーはいはい、ともかくね。和葉、これは慈善事業じゃないってのは本当だから。あの、ヴァル・ヴェルデ共和国でのテロって知ってる?」 秋がくるくると指を回しながら言う。 「ヴァル・ヴェルデのテロ……?あの、首都で銃を乱射して200人死亡って話だっけ。」 そう、つい私がここに来る数週間前、南米の大国であり、ラテンアメリカ圏では唯一残った共産主義国家のヴァル・ヴェルデ共和国の首都でテロが起きていたのだ。ちなみにヴァル・ヴェルデとはヴァル・ヴェルデ語で「緑の丘」を指す。 「そう、あれは国内のカルト宗教ガルタスック教による大規模虐殺と喧伝されたけど、実情は良く分かっていない。」 「CIAによると、何だっけ?」 そう前置きして話のバトンを賀茂に渡す。 「ええ、ヴァル・ヴェルデの件はどう見ても魔獣によるものだそうよ。観測衛星が現地のエスカロン国際空港にガンセリアを観測し、直後に移動した魔獣によって首都周辺では大規模な被害が出された。共和国政府は、それをロケット砲50門で首都を包囲、飽和攻撃によってやっとのこと制圧したとのことよ。ヴァル・ヴェルデはその話を国際社会に向けた宗教弾圧の大義名分に政治利用したに過ぎない。こんなこと天におられる我等が主が見逃すわけが無いのよ。」 これは、重要な話を聞いてしまった。天におられるなんたらは良く分からないが、ヴァル・ヴェルデの事実は魔獣による被害であった。そして、これは政治利用された。つまり、このような件は他国でどのような被害・推移をもたらすか分からないと言うことだ。 「私たちは当日直ぐにでもヴァル・ヴェルデに飛びたかった。でも、そんなことは不可能でしょ?」 賀茂が目を細めて問いかけてくる。 「だから、私たちは私たちの陣地を守る。それだけだよ和葉。」 秋がそう付け加えた。私の目の前に広がっているのは、一体何なのかそれはもう良く分からなくなっていた。 「そういえばだけどさ~」 秋が賀茂に尋ねる。 「何?」 「和葉の能力って何よ?私は『幻矢』、賀茂ちゃんは『分解』でやってきたけどさ。」 能力?聞き慣れない、というか中二病っぽくて非現実的な言葉が耳に入ってくる。 「そうね、今回の戦闘では良く分からなかったし、また次の戦闘で」 「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいよ。つ、次の戦闘?これ何時まで続くんですか?てか、私もあんなふうに殺さないと行けないんですか。」 「八ヶ崎さん」 賀茂はまたも目を細めて和葉の肩に手を置く。 もうこれ以上あんな惨事を見たくないし、正直ヴァル・ヴェルデの話を聞いてこの人たちに関わりたくないとも思った。 「もう一度言うけれども、これは慈善事業じゃない。我々がやらなくては誰もこの街、人、思い出は守れない。だから、私たちが選ばれたの。だから、」 「選ばれた、選ばれたって言いますけどっ!」 大声を上げてしまう。 「あなた達二人でも十分じゃないですか。今日は素晴らしかったですよ、精々選ばれた二人でこの街と人と思い出を護ってください。 私は……もうごめんです。選ばれたとしても……怖いし、殺しなんてしたくない。」 賀茂と秋は無言になってしまった。一人は厳しい表情で、一人は悲しそうな表情で。 「そうやって逃げてしまうのね、あなたみたいに一般人がガンセリアに入れば魔獣に直ぐに殺される。その時に、瞬間に行動が出来る選択肢はあなたが入ることで広がる。でも、これからのあなたの自分勝手な行動で救える人とその可能性は上がらない。もちろん、被害を受けて死ぬ人も居るでしょうし、何を言っても私たち人間は完全じゃない。」 和葉は衝撃を受けていた。自分が人を護れる可能性を上げる要員となれるとは考えていなかったからである。 「どうするの、あなたは人を救うの、救わないの。」 賀茂は今までで一番厳しい表情をした。 こんなことを言われてはこう返すしかない。 「私は自分勝手じゃない!」 秋は驚いたのか顔色を白くしてのけぞる。 「私は助けられる人々が居るなら助けたい!ヴァル・ヴェルデでも何処にでも飛んで行って! でも……私、どうすればいいか分からないよ……。こんな急に意味の分からないことに巻き込まれて、魔獣と戦えとか、世界情勢がこうなんだとか言われても実感わかないもの。」 和葉は泣きそうなその面を上げて、賀茂を睨みつける。 「ねえ!賀茂さん、私はどうすればいいの!今私に望まれていることは何!潔く人々のために少女を殺すこと?それとも」 「もうやめてよ!」 いきなり秋が肩を持ってくる。気付くと、いつの間にか目から涙が出続けていることに気付いた。 秋は和葉の肩を揺らす。秋も泣いていた。 「私たち、そんなに深く考えてないよ。ただ、人々を助けたいから目の前の事象に戦っているだけ。それがそんなに悪いことなの? ねえ、和葉、私を否定しないで……お願いだから……。」 賀茂は依然固い顔をしていた。 「とりあえず、タンゴ・ヤンキーは討伐した。解散よ。柊さん、八ヶ崎さん、あなたたちはとりあえず休んで、今日の放課後はまた私の部屋に集合よ。以上。」 私たち二人に背を向けて賀茂は歩き出した。 ―― 「さて、やってきたね。」 いつもの部屋にいつもの三人と言いたげに椅子にレイヴァーが座っている。 賀茂、秋、和葉の三人は賀茂の部屋に集まっていた。レイヴァーと賀茂の召集によるものだった。 「八ヶ崎君、君は戦いたくないようだね。」 レイヴァーが静寂を突っ切って和葉に向って言う。 戦いたくない?当然であろう、血で自分の手を汚して平和を守る、人を守り、町も守る。軍人なら当然の義務だろうが和葉自身は一端のただの中学生である。無理も無く自分の手で人を殺めることには平和のためだとしても、それが人間かどうか分からないにしても疑問を持ち、恐怖が表れるだろう。 「んで、戦わないならどうするんですか。」 「何もしないさ。」 レイヴァーはさらっという。残りの二人は「えっ」っと驚いたような表情でレイヴァーを見つめた。 「君が手を汚したくない以上、平和と現状維持を守る僕たちには君を脅迫してまでパフェ・パフィエに参加させることはできないし、そんなことをすればかえって『事故』を起こす可能性が高まる。」 「事故?なにかあったんですか?」 怪訝な面でレイヴァーを見る。 「あ、ああ、昔にな、魔獣と『魔法使い』が同時に出てきて民間人と共に何をすれば良いか分からなくなった末にどこかへ逃走してしまって、民間人は死んだ。町田で未解決誘拐事件扱いになっているが魔獣に殺された後パフェ・パフィエが後片付けを行ったからだ。それで、」 「ちょっと、レイヴァー。その話はしない約束よね。」 賀茂が介入するが、レイヴァーはそれを手で押しとめ話を続けようとする。怪訝な面はそのまま和葉の顔に張り付いたように、心境は黒くなり始めていた。 「ともかく、君が自分の手を汚したくない、だが人は守りたいなんてそんな上手いことは出来ない。君の祖国がアレに侵略されて、町も人も記憶も歴史も全て破壊されていいのなら君はここから去るが良い。だが、」 レイヴァーは顔を少し上げて、顔をしかめる。 「君は何も守ることは出来ない。」 そう、そうなのだ。 自分の手を汚さなければ、何かを守ることは出来ない。そんなことは、分かりきっていた。 「私は守りたいんです。でも、方法を知らない。賀茂さんや秋みたいな力もないし……どうすれば良いか分からない。」 「君がなんで『魔法使い』と呼ばれているのか、まだ分かっていないようだね。」 レイヴァーは椅子をたって、窓のシェードをちょっと開ける。窓は夕闇が部屋を飲み込むかのように市街地の情景を映し出す。 「君が『魔法使い』になっているのならば、君にも能力は在るはずだ。それを見つけ出すためには、ガンセリアの発生時に賀茂君や柊君に随行してもらう。」 和葉に是非は無かった。 「……はい。」 そういった瞬間にレイヴァーのポケットから携帯電話の着信音のような音が鳴り響いた。直ぐに取り出して応答する。 "Ja, Laiyva." 外国語で応答していた。英語っぽくはなくフランス語っぽい発音だ。 "Filaichés, éhuliafis. saile fain. Mait caala." そう言いレイヴァーは携帯電話をしまった。 「さーて、魔獣が再度出ることが確認された。本当に君は雨少女みたいだな。」 「雨少女?」 賀茂が復唱する。 「来るたびに雨が降る人間を日本語では雨女・雨男と言うだろう?さあ、行きたまえ。」 慣用句を弄られても困る。レイヴァーの日本語能力の開発に付き合わされる前に魔獣を討伐しに行きたいところであった。 「今回の討伐目標のコードネームはジュリエット・オスカー。能力は爆撃のようね。」 賀茂が歩きながら、スマホの画面をタップして言う。 「あの、私はどうすれば。」 またもや何も出来ないのかとあせっていた和葉は賀茂に尋ねた。 「どうもしなくて良い。ってのが本心だけど能力の出し方を考えて欲しいわ。」 「……っと、例のJO――ジュリエット・オスカー――が出てきたね。」 秋が言う。確かに先のほうに男性らしき人が一人立っている。あれが対象になるらしいが、和葉としてはまた足がすくむような気がしていた。 「さあ、行きましょう。」 しゃがんだ賀茂はアスファルトの道路に手を触れて、念じる。すると放射状に手の先のアスファルトがどんどん溶けていった。 "Harmie co es e'i!?" JOがなにやら良く分からないことを言って溶けたアスファルトに足を埋めてしまう。体勢を崩したところに秋が手を翳し、攻撃を続けようとするがいきなり爆発が起き、吹き飛ばされる。強烈な爆風になす術も無く強烈に地面に叩きつけられる。 "Xelken o eter eso'i mi qune niv pa fi coss elm, mi reto coss!" また何かいっている。多分さっきのが特異能力の爆撃であろう。 良く見ると溶けたアスファルトに火がついている。溶けたアスファルトから蒸発した何かへ爆撃時に着火し、大きく爆発したのかもしれない。 「ぐっ……次の爆撃に備えろ!秋!和葉をサポートしr」 大爆発を起こしてまたもや爆撃が下る。次は賀茂が吹き飛ばされる。藍色のシャツは出血で血に塗れる。 「賀茂さん!?」 「大丈夫、大丈夫、『魔法使い』で居る限り普通の攻撃じゃ死なないし直ぐ回復するよ。それよりこっちだっ!」 秋がそう言うと若葉の腕を掴む。 「わわわっ!?!?」」 ぐいっと和葉を引っ張ると秋は空に和葉を投げる。一瞬で空中高く投げ上げられたように感じた。秋にこんな力があるとは。 「任されたしね。ちゃんと守ってあげないと。」 爆撃を放とうとするJOに対して手を翳す。 「終わりだ。」 一瞬で大量の矢が出現して、目にも留まらぬ速さでJOを襲う。だがしかし、矢は上空での不意の爆撃によって速度を失うか、燃えて消えた。敵も只では倒させてくれないようである。 そういえば、さっきからずっと上空に留まって落ちてこないで居る。どういうことだろうか、これも秋の能力だろうかと考えていると赤い体が透けた鳥が秋の真上を飛んでいった。 瞬間、鳥が通った真下を爆発が覆う。秋は、すんでのところで爆発を避ける。なるほど、あの鳥が爆撃を行っていると言うわけか。 「秋!爆撃しているのは上空の鳥だよ!」 和葉は秋に警告するものの、秋は何も聞こえていないかのように振舞っている。 赤いガラス細工のような鳥は爆撃した先を軸ゼロ距離かのようなありえない急角度で旋回する。次は必ず当てる気だ。JOは少し笑って答える。 "Harmie es n. Co es lij la lex?" 「秋!上の鳥!上の鳥に爆撃されるって!くっ……」 全然聞こえていないようだ。自分が鳥を落とせたら。 いや……落とせる。自分だって『魔法使い』だって言われた。彼女等が能力を持っているのならば私だって能力が使えるはず。 「さあ、あの鳥を落とせっ!」 手を翳し、叫ぶ。 すると、和葉の手を翳した方向へ火柱が放たれた。ガラス細工のような透けた鳥は火柱を避けて和葉に向う。 瞬間、空に居たはずの和葉はCGのように高速で足場を変えて、地上に着地する。 「和葉、何を!?」 「八ヶ崎和葉の能力は『火炎』、火を操る能力よ。」 走って鳥を追いかける和葉に秋が追従する。賀茂はJO本体に対応することになった。三人の息はすでに完璧に合っていた。 「さあて、鳥は止まらないようだね。和葉、火は届きそう?」 「いや、多分無理。秋、さっきみたいに私を投げて!」 「えっ?」 秋は少々困惑した表情になっていた。 「いや、さっきのは私の能力で和葉を退避させておいて、幻覚を見せていただけだよ。実際に私が和葉をあんな宙にあげられるわけ無いじゃんよ。私の能力は二つ。幻覚を見せることと、見せた幻覚を現実化することだよ。」 そうだったのか。じゃあ、さっきの視覚はなんだったのか。何故私の声は秋に聞こえなかったのか。色々疑問は在るが、今はあの鳥を落とすことだけを考えねば。 「秋、じゃああの鳥に幻覚を見せて地面に激突させるのは。」 「うーん、魔獣以外に幻覚を見せたことは無いんだけど、やるしかないか……」 秋が走りながら鳥に手を翳すと、上手く地面にぶつからせる事に成功した。そのガラス細工のような体にひびが入ったかのように見えた。 「止めをつけてやるっ」 和葉は全身全力で火柱を放った。 「お友達は死んだようね。こちらもやられた分やり返させてもらうわ。」 賀茂はJOに向いそう言い放つ。手を翳すのではなく、指を指して衝撃波を一点に集中して放つ。しかし、相手も只では倒れてはくれない。攻撃手段を失いながらも、退路を探しているようであった。だが逃がしはしない、今回も想定通りの被害で魔獣を狩る――。 目を見開き、移動するであろうポイントに連続して分解する。だが、やはりスピードが早くタイミングが合わず失敗する。そこら中が瓦礫だらけになっている。視認したJOの行く手を阻むように瓦礫を吹き飛ばそうとしたところ、鈍い音を立てて賀茂の足元が軋む。 どうやら、衝撃波で下部の岩盤の空洞上部に亀裂を与えてしまったようだ。これでは動きようがない。空洞の大きさによっては被害が増幅する。 "Destek ja! iskaersti!" 煽るように叫んで手を翳す。そうか、攻撃手段を失ったわけじゃなかったんだ。最後の最後まで私を追い込んで確実に一撃を……。まさか、最初からそう考えていたとしたら……。 「鳥は……囮……?」 ダメだ。負けてはならない。人々とこの町とを守ると主に誓って魔獣を殺している身の上、このまま死んでは何にもならない。考えろ、考えろ、どうすれば動かずに倒せる。この距離から分解能力を発動してもJO本体には届かない……どうすれば。 そんなことを考えていたところ、向こう側の道路から秋と和葉が走ってくる。 「だ、ダメ!衝撃を与えてはいけない!崩れ落ちるわ!」 「大丈夫だよ、賀茂さん、見てて。」 そういって和葉がJOに手を翳す。慌てた様子でJOは賀茂に翳した手を和葉に向けようとする。しかし、それよりも早く和葉の火柱がJOに接触する。 しかし、瞬間JOは消滅した。 「あ、あれ?」 「逃がした……か。」 賀茂がそういった瞬間、大きな音を鳴らして何かが崩れる音が聞こえる。 「か、賀茂ちゃん!?これ崩れるよ!崩れるよね!?」 「うるさい、小規模な陥没よ。私も焦ってて状況把握が出来なかった。」 半分血に濡れたシャツを纏いながら賀茂が言う。 「え、でも凄い音ですよ。」 「それはだなあ。」 そう賀茂が言った瞬間、全ては暗転した。 「あのだなあ。被害は最小限にとあれほど言ったはずだが。」 病床に寝込む賀茂にレイヴァーが話しかける。私たちは別に無傷で在ったためにお咎めは無かったが、賀茂は地に濡れた蒼色シャツのせいで強制入院となってしまった。 あのあと、どうなったかと言うと陥没が発生した瞬間、近くにあった水道管も破裂し私たちは陥没した穴の外に高圧の水流で投げ出され、路上に打ち付けられたところをレイヴァーに発見されたらしい。これでも死なないのが『魔法使い』らしいところ、とレイヴァーに皮肉っぽく言われた。今は秋と二人で賀茂の病室に居る。 「さあ、八ヶ崎君」 「え、はい。」 突然名前を呼ばれてどぎまぎする。 「最初の戦いだったけど、どうだったかな。」 「ま、まあ、能力も使えるし大丈夫だったです。きょ、今日はちょっと約束が在るのでお暇させてもらいますね。」 といっても言語雑誌の発売日ってだけだが。 「あ、ちょっと和葉待ってよ!賀茂ちゃんまた来るからね!」 「ええ。」 または無い。直ぐに直るといった表情で賀茂はベッドに寝ていた。 「レイヴァー。」 「なんだい、賀茂君。」 「彼女にはまだ判断力が乏しいけど、力は在るものと判断したわ。」 「ほう、それは良いことだ。」 レイヴァーは感心したように目を開いて、頷く。 「だけど、クレアのことはもうどうにも成らないのかしら。」 「ああ。」 レイヴァーは再び真顔になって答える。 「彼女がどうにかしてくれる気がするよ。」 病床の窓からの光は明るく二人を照らしていた。 →第三章「遠征」
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ただ一点、曲がった首の瞳が、いつの間にか私というより、私の手元に注がれていることに気がついた。 私が握り締めているある物に。 第二十二話 私が握り締めていたのは、コートと、妻からもらった毛糸の赤い手袋だった。 私はほんの一瞬、それらに目をやり、再び人形の視線を追った・・・。 やはり赤い手袋を見ているようだ。人形は、ゆらゆらと微妙にカラダを動かしているが、先ほどからほとんど動かない。 私は恐る恐る、赤い手袋を持った手を動かし・・・人形のほうへ動かしてみた。 ・・・! やはりその銀色の眼球は手袋を追っている。 何故・・・!? 私は必死に神父の話を思い出そうとした。 ヨーロッパの小さな町、しつけの厳しい母親、寒い日に母からのプレゼント、失くしてしまう・・・ あ・・・ 私の目には再び涙が溢れてきた・・・。 「君が・・・ママからもらって 失くしてしまったのは この 赤い手袋なのかい? ・・・メリー?」 「一度、取り戻したけど、君は殺されてしまったから・・・、 君はもう二度と手にすることのできなかったもの・・・ それが、これなのかい? 」 「人形」は相変わらず動かない・・・。 私は涙で顔をくしゃくしゃにしながら、意を決して、一対の手袋をゆっくりと「人形」に差し出した。 しばらく「彼女」はじっとしていたが、私の動きと同じぐらい遅い動作で手を伸ばした・・・。 「彼女」の指が触れた。彼女はすぐには手袋を取らない・・・。 怖かったが、私は麻衣に接するかのように、彼女の指を優しく撫でた。 硬くて冷たい指だった。彼女はその間、じっとわたしの動きを見ている。 「ママから もらった手袋・・・ 」 その時彼女は、小さいが、はっきりとした声でしゃべったのだ。 私がそれに驚くと、彼女は思い出したかのように急な動作で私から手袋を取り上げ、はじけるように、応接室の窓ガラスに身体を突っ込んだ。 うぅ らぁ らぁ 彼女はガラスの窓枠にいったんしがみつき、 歌うような声をあげた後、二階へとかけ登っていった・・・。 しばらくして、階上の遠くのほうで小さな電話の音が何回か・・・、 そして、数人の男性の悲鳴が聞こえた。 県議会議員の断末魔の声も・・・。 ⇒
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もくじ 「おはよ、涼宮さん!」 「あ、朝倉さん」 「桜綺麗ねー…もっと沢山咲けばいいのに」 「北高の周りでこんなに沢山生えてるのってこの辺だけなのよね。駅前とかではたくさん咲いてたわよ」 「そうなんだぁ…あーあ、こんな素敵な桜並木を好きな人と歩けたらいいのになぁ」 「何よそれ」 「んー…青春って感じしないかしら?涼宮さんは気になる人とかいないの?」 「…気になる人、ね…」 「せめて桜が散る前にそんな人と一緒に歩きたいな」 「…そんなものかしらねぇ」 春である。 ハルヒが訳の分からん団を設立させた次の日。 既にハルヒはすべきことに目星をつけていたようであり、俺が学校に着くや否や再び俺の襟首を掴んで屋上まで引きずっていったわけだ。 「団っていうくらいなんだからアジトが必要だと思うのよ」 「アジト?」 「そうよ!そこで今後の予定とか練ったりするのよ!面白そうじゃない?」 …まぁ楽しそうではあるが。 「でしょ!じゃあ学校の中でアジトになりそうなところを考えておくこと!」 「ちょっと待て、ハルヒは何もしないのか?」 「あたしだって考えるわよ。ひとりで考えるよりふたりで考えた方が良い結果がでるでしょ?」 …それもそうか。 しかしいきなりアジトっつったって場所なんかあるのかねこの学校に。 午前の授業を終え、谷口と国木田が弁当を摘むのを見ながらぼんやりとそう思った。 「キョン。飯食わないのか?」 「…あぁ、今食う」 こいつらに聞いてみるか。 「…なぁ、この学校で使ってない場所ってどこか知らないか?」 「場所?…すまん、女子のことじゃないからわからん。というか興味がない」 まぁそうだろうなぁ。 「旧校舎の方ならあるんじゃないのかな?僕は行ったことないからわからないけど」 「旧校舎かぁ…」 「っていうかそんなこと聞いて何するつもりなんだキョンは」 あー… 「…俺にもわからん」 「なんだそりゃ」 ふと、ハルヒの机を見てみる。 ハルヒは弁当を持ってきて無いらしく、授業が終わるとすぐに朝倉と食堂へ向かっていった。 「朝倉は食堂派なのか。というか興味無い振りして見てたんだな」 「断じて違う。ハルヒがそう言ってただけだ」 「…食堂か。僕は弁当でいいな。移動するのが面倒くさいし」 同感だ。 「なぁキョン」 「ん?何だ?」 「そういや昨日涼宮に引っ張られてったが、何だったんだ?」 …何があったかって…そりゃあ… 『あたしがあんたを助けてあげるわ!』 「…別に。何も無かったぞ」 「………」 …何だよ。 人の顔じーっと見て。 「…いや、無いな」 「だから何の話だ」 気にするな、と言って谷口は弁当を食べる作業を再開する。 …結局何が言いたいのかよくわからん。 でもって放課後。 「旧校舎?」 「あぁ、国木田がそこなら空いてる場所があるんじゃないかって」 「いいじゃない!早速行ってみましょう!」 …ちょっと待ってくれ。 「ん?どうしたの?」 「ハルヒは考えてなかったのか?どこか良い場所がないか」 「…あー…ほら、早くしないと時間なくなっちゃうわよ!」 …やれやれ。 で、だ。 こういうことは先に考えるべきだったのかもしれんが。 国木田の言うように空いてそうな部室はいくつかあったわけだが… 「何よ!全部鍵がかかってるじゃない!」 …と、いうわけでして。 まぁ元々使ってない場所だ。 必要な時以外は閉めておくのが普通だろう。 「もう!記念すべきアジト候補が目の前にあるのに!」 「…落ち着けハルヒ、場所なら他にも捜せばいいだろう」 「嫌よ!ここがいい!」 …何でまた。 そこまで口調を強めてまで我が儘言うことでも無いだろう。 「国木田に助けを貰ったとはいえ、折角キョンが考えてくれたんだから!団員の考えを押し通すのは団長の勤めなの!」 「…あぁ、そーかい。で、どうするんだ?」 んー…と言いながら腕を組むハルヒ。 「…世界にはピッキングという技術があるらしいわ」 却下だ。 正攻法でいこうぜ。 「正攻法って言ったってこんな非公式な団のために教師が鍵貸してくれるわけないじゃない!」 「…そこは自覚してるんだな。というか声がでかいぞ」 下手したら変なこと企んでるって… 「………」 …数分前からじっとこっちを覗いてた先輩に勘違いされるぞ。 「あー…すみません、うるさかったですか?」 「いやいや、ただ何してるのか気になって…鍵を探しているのかい?」 「え!鍵持ってるの!?だったら早く渡しなさいよ!」 だから落ち着けって。 というか相手は先輩なんだから口の効き方にも気をつけろ。 「むー…」 「いや、まぁそこまで気を使わなくても…あ、ほら、鍵」 そういって先輩はポケットから鍵をだす。 「え?いいんですか?」 「あぁ、元々このコンピ研もそういう流れで部室を借りたわけだし、他に部室を使いたがってる人がいたら鍵を渡すようにって言われてたんだ」 「でもこんな非公式な団体に…」 「あぁもう!何ゴチャゴチャ言ってるのよ!鍵あげるって言ってるんだからちゃっちゃと受け取りましょうよ!」 「ははっ、彼女の言うとおりだよ、それに非公式ならこちらのコンピ研もそうだ。実際生徒会側からはあまり認められてないんだから」 …いいのかよそんなんで。 部室の中は何年も使われていなかったのだろう、お世辞にも綺麗といえるようなものではなかった。 別に物置みたいにされてる訳でもないし道具が散乱してるってこともないんだが。 「…すっげぇ埃だな。とりあえず窓を開けよう」 「じゃあキョンはここの掃除でもしてて!あたしは必要なものとってくるから!」 「はぁ!?おい!ちょっと待て!」 言うが早いかハルヒはすぐに部室から出て行った。 …逃げやがったな。 「…やれやれ」 …掃除するか。 といっても何から始めて良いのかさっぱりわからん。 仕方なく空気を入れ換えるために窓を開ける。 中庭では部活動に向かう人や友人達と下校する人、様々な人が賑わっていた。 俺もあのまま行けば下校する連中の一人になってたのかね? そう思った途端に人混みから色が消える。 …嫌な癖だ。 空は青い、雲は白い。 当たり前のことだ。 なのに何故色を失わない? 当たり前の行動をしている人は霞んでいるのに。 …考えるだけ無駄か。 一つ溜め息を吐き、机の上に置いてある本を片付けようとする。 「…ん?」 この本…卒業アルバムか?相当古いな。 何気なく開いてみる。 2、30年前のもののようで、みんな思い思いの人と写真を撮っている。 …さすがに知ってる人はいないか…あれ? この人は…お袋? 年号を見返して…あぁ、納得、確かにこのあたりの世代だ。 一度目の流し読みとは違い、今度はお袋の写真を目で追ってみる。 いつも特定の人と一緒にいるようで、その人とお袋だけ写っている写真が数多くあった。 俺と国木田と谷口みたいなもんか。 「おまたせー!ってちょっとキョン!全然掃除してないじゃない!」 そんなことはない、ほらこうやって今本を一冊片付けたぞ。 「…殴られたいのかしら?」 「…すんませんでした」 「全く、団長に言われたことはきちんとやんなさい!」 「了解…ところで、そのホワイトボードは何だ?」 「あぁ、使ってなさそうなのかっぱらってきたの。何かと便利かと思って」 …かっぱらってきたって… 「バレたら返せばいいのよ。長い間放置されてたみたいだし、無くなったのにも気がついてないと思うわ」 「…あぁ、そう」 「とりあえず今日はもう遅いから、明日の予定だけ決めて帰りましょう!」 おいおい、明日はせっかくの休みなのに何かするってのか? 「明日は第1回SOS団楽しいこと探しを決行するわ!」 「…相変わらず素晴らしいネームセンスで」 ってかそんなことして意味があるのか? 「………」 「…何故そんなに哀れみに満ちた目で俺を見るんだ」 「あのねぇ…あんたの休日にすることなんてただ家でゴロゴロしてるだけでしょ!?大体、毎日同じことの繰り返しって…自分から動きもしないのに楽しいことが玄関のベルを鳴らしてくれるわけないじゃない! …いい格好したいのか知らないけどね、物事を冷めた目で見る暇があったら少しでも笑う努力をしなさい!…はい、ここまでで何か反論は?」 …無いです。 「コホン…だからこういうところで自分から動く癖をつけとくの!だいたいね、全くその人のためにならないならわかるけど、意味の無い行動なんて絶対に無いんだから!わかった!?」 「その…すまん」 「わかれば良いのよ。じゃあ明日の12時に駅前の公園集合ね。あ、ちなみに遅れた方は罰金だから」 罰金て。 「嫌だったら遅れずにくること!んじゃあね!」 まるで嵐のように去って行きやがった。 …遅れずに、ね…どうせ午前は暇だし、少し早めにでも行ってみるか。 入学祝いやなんやらで少し充実している財布をこんなところで小さくすることもあるまい。 …そう思って一時間前に着いたのに…何で俺は罰金を払わなきゃいけないんだ? 「決まってるじゃない。あんたがあたしより遅かったからよ」 場所は駅前の喫茶店。 今やハルヒの前には作りたてのカルボナーラ、俺の目の前にはホットコーヒーと伝票が置かれている。 「いつからいたんだよ…」 「あんたがくる少し前よ。本当は色々回ってからくる予定だったんだけど…」 そう言ってハルヒは外を見る。 窓の外では春という季節に相応しくないほど雨が振っており、恐らくは朝、傘を持たずに家を出たのだろう、どしゃ降りの中動けずに雨宿りしている人がたくさんいた。 「急に降り出したからなぁ…ま、すぐに止むだろ」 「それもそうね。今日はキョンの罰金だし、ゆっくり好きなものでも食べましょ」 待て、カルボナーラだけじゃないのか? 「遅れてきた奴に文句言う筋合いは無いわ」 「…お前が遅れてきた暁には絶対にこんなもんじゃすまさねぇからな」「あたしより先に来てから言いなさい。言っとくけど今のあんたには負ける気がしないわ!」 「今のって…昔の俺のことでも知ってんのか?」 「………」 …ハルヒさん? 綺麗にパスタを絡めたフォークを持ち上げたまま固まってやがる。 …せめて口くらい閉じろ。 「…知らない」 「…だよな」 「ただ…なんかやっぱりあんたとはどこかで会ってる気がするのよ…」 「…気のせいだろ」 「うーん…そうよね、まぁ腑抜けなあんたに負ける気はしないってことで」 …そーですか。 「…お、雨止んだな。で、今日はどこに行くんだ?」 「そうね…とりあえず服とか見に行きたいんだけど」 服って…楽しいこと探すんじゃなかったのか? 「…昨日言ったこと、もう忘れたの?」 「…意味の無い行動なんて絶対に無いってか。わかったよ、ただし、もう奢らないからな」 「そこまでしなくて良いわよ。んと…ここからなら駅の裏にある店が良いわ」 よし、ならさっそくその店に行こうか。 腰を上げて伝票に目を通す。 …げ、最近の喫茶店ってこんなに金取るのかよ。 「キョン!早くしなさーい」 「…へいへい」 仕方なく会計を済ませて店を出る。 うん、いい天気。 「さっきまで雨降ってたのが嘘みたいね」 そう言って俺の少し前を歩くハルヒが立ち止まる。 「…どうしたんだ?」 「やっぱりこっちの道から行きましょ!」 そっちは遠回りじゃないのか? 「………」 「はいはい、意味の無い行動なんてない、だろ?」 言うが早いか、ハルヒはニッコリ笑った。 地面の水たまり、木々に付いた水滴、そんなものを全部吹き飛ばすような笑顔。 思わず目を凝らしたくなるほど長い桜並木を、俺とハルヒはのんびり歩いた。 …満開の桜の中を歩いている間、ハルヒがずっとニコニコしていたのは…一体何だったんだろうね? つづく
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・ナレーション 若輩ながら最強を名乗る 宮本武蔵の噂を 聞いた蘭丸は、 子供の中では我こそが最強と、 武蔵に果たし状を送ったのであった。 蘭丸「光秀、立ち会い人ってやつをやれよな。蘭丸は立派な武士だぞ」 光秀「まあ、いいでしょう…見るだけならばいくらでも」 ・巌流島 武蔵「果たし状を送ったのはおめぇか? 難しい字ばっかで読めなかったぞ」 蘭丸「蘭丸は簡単な字で書いたよ。お前馬鹿だろ?」 武蔵「俺様の最強剣を食らいやがれ!」 蘭丸「蘭丸の最強の技、見せてやるよ!」 ・宮本武蔵戦 武蔵「飛び道具で決闘すんなボケ!」 蘭丸「うるせぇな! 蘭丸は弓が得意なんだよ!」 蘭丸「おーにさんこちらー 手の鳴る方へー」 武蔵「遠くからチクチクと! 卑怯だぞ!」 武蔵「さてはおめぇ…俺様をからかいにきたな!?」 蘭丸「今頃気付いたのか? にっぶいなー」 武蔵「俺様弓矢なんか怖くねぇ! いててて」 蘭丸「力任せの単純馬鹿には負けねぇよ!」 武蔵「こそこそする卑怯もんには負けねぇぞ!」 ・勝利 武蔵「おめぇ、意外とやるな!」 蘭丸「へへっ、次は目にもの見せてやるからな!」 光秀「子供同士、おめでたいですね…」
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第一章 第二章 第三章 第四章 第一章 『資本企業』 サミュエル=ブラックホーク 『信心組織』、『ミレニアム・アウターヘブン』 シドウ=ユキグニ シンイェン=ユリシーズ 第二章 『アイアンブリード』 シャスカ=メキシコーラ 第三章 『アイアンブリード』 ヴァイナモ=ブザムカレッサー 『信心組織』、『ミレニアム・アウターヘブン』 アルフィア=ティファナ=サンライズ 第四章 『アイアンブリード』 エドワード=レッドバイキング